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牛尾は新宿北警察署の刑事。一人息子をかつて信州の山中で殺され、絵を描くことを心の支えにしている妻の澄枝と二人暮らし。部下の大上刑事の結婚話をわが子のことのように心にかけている。そんなある夜明け、駅近くの通りに五十歳前後の男の死体が捨てられてあった。絞殺されているが身元不明。指の爪からひっかいたらしい古い絵の具が検出された。翌日、父ではないかと警察病院の霊安室に若い女が来たが、死体を前に顔いろが青ざめ、父ではないと言って去った。
が、牛尾にはその様子が心にひっかかった。その頃、信州の大ボス・佐藤兵衛が、与党幹事長の要請もあり国会議員に立候補を決めた。佐藤は政財界に幅を利かす一方、むかしから美術に深い理解を示し、松本に美術館を建て、最近はエゴン・シーレの名画を五億円で買って評判になっていた。身元不明の男の死体と若い女とこの佐藤とを結びつける線は、二十六年前に起きた信州でのある事件にさかのぼる・・・。